こんにちは、彩玉です。
ここではとにかく難しいことは抜きにして、絵を一度も習ったことがない初心者の人向けに、最も簡単なトレスからオリジナル背景が描けるまでの実践練習課題の内容と手順を紹介します。
背景業界歴24年、背景講師歴17年の経験をどんどんシェアしようと思います。
背景を習得するというは冗談でも簡単とは言えません。ならば楽しみながら目標をしっかり持って、最短で上達したほうが絶対にお得ですよね。
最後には次のステップとして、スケッチ、デッサン、カラー彩色、オリジナルへの紹介、そして、上達するための日々のルーティーン作りまでご紹介していますので是非一読ください。
背景の練習方法は何から?【初心者向け練習方法】
身になる練習を行うための心構え編
実践へ移る前におすすめ出来ない描き方がありますので守ってください。密度を濃く目的をもってやりましょう。
あまり好ましくない練習方法
- デジタルの場合、変形や直線定規、当然ながらパース定規、レイヤー分け
- アナログの場合、消しゴムの頻繁な仕様
- いきなりのカラー彩色
- 時間を決めないだらだら描画
- 資料を何も見ない
- 写真を適当に変更しながらの自由な描写
上達を考えてのことで、少ない時間で大きな利益を得るためと思ってもらってください。まずはシンプルに「描く」ことに専念しつつ資料を見ながら実物を覚えていってください。
パース定規やレイヤー分けはソフトの技術ですし、資料を見ないと教科書見ずに授業受けているようなものです。
写真・画材・機材準備
写真資料、使用画材や機材を用意します。
見本はPhotoshopでの制作ですが、どちらでも出来るように解説していますので手軽なほうを選んでください。
迷ったらアナログが一番です。安いですし。
画材・機材
- 鉛筆、色鉛筆、デジタル(見本はPhotoshop制作)など、線が描け、白黒で塗ることが出来るものが必要です。塗るのは鉛筆でも十分です。
画用紙
- 透ける白い紙、トレッシングペーパーなど
- トレス以外は普通の画用紙やコピー用紙
- 最初は写真サイズと同じサイズが良いです
背景は余白も使って正確な位置を探って描いています。写真とまったくの同じサイズの紙に描くことが一番簡単で、実践後半からあえてサイズを曖昧にしています。とにかく最初は簡単な同サイズでチャレンジしましょう。
写真
- 同じ写真のカラーと白黒(床は白いほうが影の形も練習になると思います)
- できるだけ四角いもので形の分かりやすい小物(カッターナイフ、爪切り、筆箱、ホッチキスなど。模様はなく床は白地)
背景の練習工程_実践編
では実践編を解説していきます。まずは工程です。最初はトレスから入り、最後は想像ということでオリジナルに繋げます。
実践工程
- 白黒写真(背景)をトレス_輪郭線のみ
- 白黒写真(背景)をトレス_白黒塗り
- 白黒写真を隣に置き見ながら描写、輪郭→白黒塗り
- 白黒写真を離して描写、輪郭→白黒塗り
- カラー写真を離して描写、輪郭→白黒塗り
- 実物を見ながら描写、白黒塗り
- 想像で描写、同じ構図で転写にチェレンジ
1~2はトレス(なぞる)、3~5は写真を見て描く、6は実物を見て描く、そして7がオリジナルです。
最後の”想像で描写”はさすがに簡単ではありませんが、最初は何も考えなくて大丈夫なトレスと使った練習方法ですから、慣れてからでもオリジナルに挑戦してみてください。
1、白黒写真(背景)をトレス_輪郭線のみ
では最初の実践練習、白黒写真を輪郭線のみ上からトレスしましょう。
ただなぞるだけなので何も考えずに形の勉強が出来ます。簡単ですね。
「白黒写真(背景)をトレス_輪郭線のみ」でのポイント
- 尖っている角と丸まっている角はしっかり描き分ける
- 線の方向は意味があると思ってずれないように
- 奥の線ほど細く
- 影もセットで。ぼけている場合でも必ず描いてください
- 「誰が使うものなのか」まで考えると仕事につながりリアルになっていきます。ホッチキスは人が手で圧力をかけますよね。そのため怪我をしないよう角がとられています。これを読み取りましょう。
2、白黒写真(背景)をトレス_白黒塗り
「1」でトレスした輪郭線を白黒で塗っていきます。ここでもトレスですので見たものを信じて素直に塗っていきましょう。
途中から見えなくなってしまうと思うので、位置はずらさず、ペラペラめくって確かめながらで進めてください。これだけでも練習になっています。デジタルは非表示を。
どうしても透かすことが出来ないという人は、「3」の工程になりますがすぐ隣に置いて描写します。近ければ近いほど良いので、紙を折ったり重ねたりしながら近づけましょう。次で説明します。
「白黒写真(背景)をトレス_白黒塗り」でのポイント
- 水彩とかデッサンとか余計なことは考えず明暗に集中する(濃さが大切)
- 目の前にあるものをそのまま無心で塗るよう心がける
- 自分で絵作りしない
- 影を忘れない
これで最初の1枚が完成しましたね。トレスという手段ではありましたがこれがデッサンです。
いかがでしょうか。これならどなたでも出来る練習法ですね。
「練習になっているの?」と思ってしまいますが意外と最適です。
背景というのは輪郭線と中身の色(これを面と言います)、この二つで出来上がっているとてもシンプルなものですよね。捉え方次第で簡単に思えてきます。立方体は6面もありますが、どんなに頑張っても3面しか見えないんですよ。美術界での立方体は3面です(笑
また、カラーより白黒で練習するのが最大のポイントです。このまま次もチャレンジしていきましょう。
3、白黒写真を隣に置き見ながら描写、輪郭→白黒塗り
では少々難しくしましょう。トレスは2まで。
ここからは白黒写真を隣へ移動させ、見ながら描くというステップアップです。
近ければ近いほど簡単ですので、下の画像のように描きたい部分を極力近づけてくださいね。上下左右、余白すべて合わせて描いていきます。
まずは輪郭です。写真を移動させただけですが、トレスよりはるかに難しくなっていると思います。中身の色や質感にはとらわれず形に集中しましょう。
垂直水平を目で追いながら、角を先に作るようにしてみてください。
次に外観ですが角度も合わせながら描いていくイメージです。例えば、「垂直の紙に対して45度傾き、余白が○○センチ余ったところで角になる」みたいにホッチキスを描いているよりは線の位置を合わせている感じです。
何度もお伝えしますが、輪郭は飛ばさないでくださいね。線画が雑だと塗りも雑に上がってくるというのがこの業界のあるあるです。
次に塗りですが、明暗を見れるようになる練習です。紙の白や暗闇の黒を基準とすると見分けられます。
光のハイライトは白、質感も見えないくらい暗いところが黒になりますので、そこより明るいか暗いかを判断しましょう。
「白黒写真を隣に置き見ながら描写、輪郭→白黒塗り」でのポイント
- 近ければ近いほど描きやすい
- 紙の垂直水平、角の位置、余白の隙間に合わせるイメージ
- 隣り合った明度差や紙の白との差、また白から黒の間のどこをさしているのか考えて。半分になるグレーも想像すると、描きたい色の濃さが判明しやすい
- 影も忘れずに
かなり難易度が上がったのではないでしょうか。
次はもっと距離を離していきます。
4、白黒写真を離して描写、輪郭→白黒塗り
徐々に初心者の域を脱してきていますが、このあたりから専門学校や美術系の練習内容になってきます。
では写真と紙を少し離します。距離=難易度になりますので上図くらいが良いですが、紙サイズ、位置を同じにするのがポイントです。
上図のように角を目で追いながら位置づけをしてください。コツは紙1/2の位置とか、紙の角から〇cm右とかですかね。
位置がそれなりに取れたら、おおまかなあたりを取り、細部描き込みをしてきます。この時も常に紙の垂直水平と余白を気にしていくことが上手に描くポイントです。
塗りは3の工程と同じ、周りの色、紙や黒いところを基準に明るいか暗いかを判断しましょう。
とは言え、3よりは難しいはずです。一つだけではなく、両サイド、上下左右の明度に対して・・・と見ていければ十分に上達していますよ!
慣れてから今度はサイズを変えます。
デジタルの方はデュアルモニターを利用するとか、本物の写真と液タブなど、媒体を分けて難易度を上げてみてください。
アナログの方は奥へ遠ざける感じがいいですね。最初は10センチ、20センチ、30センチと徐々に奥へ。写真と紙は重なるくらいすぐ横に見えている位置を作ります。
下図のように壁などに白黒写真を立てかけます。そして重なるくらい横に自分の画用紙を同じように立てて持ち描写していきましょう。下敷きなど利用してください。
イーゼルに立てて描いているイメージです。
奥へ離していく
難しい場合はマスを切りましょう
写真の見本は小さくなりましたよね。しかし、小さく見えているからと言ってその大きさに描かないでください。
デジタル同様、紙に対して同サイズに描き上げられるように描いてください。余白も作品なのでバランス調整が必要になってきます。難しければ同じサイズに描いて、徐々に紙サイズに合わせるのがいいですね。
まずは10センチあたりから無理せず一つずつ。
「白黒写真を離して描写、輪郭→白黒塗り」のポイント
- 同じサイズであるということを利用する。紙に対して垂直水平、または余白からどれぐらい離れているかを目で一つ一つ確認して描くとずれが最小限で済む
- 見本も描く側も4等分や16等分など縦横の線を入れてみると場所が特定しやすい。普段は目で等分しますが、難しければ直接描いて確認しながら描く(精密画のスタートがこれ)
- トレスと違い、薄いラフ線であたいを取ってみる
- たまに紙を遠ざけて大きさや配置を確認する
5、カラー写真を離して描写、輪郭→白黒塗り
ここから写真をカラー版へ変更します。塗るのは白黒描写ですのでお間違いのないように。
やり方は前項と同じ、横水平(縦垂直へ変更してみても可)、または奥と手前に離して描写してきましょう。
見ているものと描いているものが初めて違うものになりました。
やり方は同じなの説明は不要ですね。ここまですべてこなしてこられた方ならそれほど難しくないはず!
「カラー写真を離して描写、輪郭→白黒塗り」でのポイント
- 白黒時同様、横にある物体が持つ色、紙の白などで、白から黒の間の何色なのかを探る
- 真ん中のグレーを見つける
白黒でお分かりになったと思うのですが、色がついているということは白ではないということなんですよね。
このように練習を白黒で重ねていくと、カラーが白黒でも判別できるようになってきます。
現実世界も白黒へ置き換えられるようになれば、見本がなくとも理屈だけで絵を構築できるようになります。
我々プロはどんな絵もとりあえず形にすることが出来ます。それは形や明暗を覚えているのではなく、光と影、そしてパース、それを立方体の仕組みで描いているだけなんです。このホッチキスも立方体の仕組みで描くことが出来ます。
とにかく、ひたすら白黒で描写することが大切です。
では最後2つに行きましょう。写真はここでお別れです。次から本物を見て描く練習です。
6、実物を見ながら描写、白黒塗り
ではとうとう実物を見ながらの描写です。これが一般的に言う本来のスケッチやデッサンです。
最初は四角に近く、形が分かりやすい小物を一つ選んで、目先10~30センチの机の上に置いて描いてみましょう。時間制限も設けたほうがいいですが、ここでは自由に描いていきましょう。
実物にはなりましたが、描き方は同じです。惑わされないよう写真と同じと思ってしっかり望んでみてください。そのうち頭の中でシャッターが押せるようになります。
「実物を見ながら描写、白黒塗り」でのポイント
- 紙を実物と同じ高さにする
- たまに紙を見ている上実物の上にかぶせるように持ってきて、トレスしているように確認を繰り返す
- 3Dと思わない。レンズを覗いていると思えば現実も2D(多少構図学の知識が必要になります)
7、想像で描写、同じ構図で転写にチェレンジ
最後は想像で描写です。と言っても、好きなものではなく、最初はここまでで描いてきたホッチキスをしっかりイメージして描き起こします。
まず、このイメージをしっかり想像させることが大切です。シミュレーションは今後多くの場所で使いますので、ついでにシミュレーションの練習もしてしまいしょう。その時は紙のサイズ、余白もしっかりイメージしてくださいね。
ホッチキスの明度、長さ、余白、中央には何があり、どれくらい傾いていたか・・・
次にホッチキスと同じサイズの紙を用意します。そして描く時はここがポイントです!紙は机にペタッと置くのではなく、出来るだけ立てた状態で描いてみてください。
頭でイメージしたものを角度の違う机に直置きすると、ラグが発生し、イメージがどんどん崩れます。
それは結局好きに描いているだけで、思い出したホッチキスとは違ってくるんですね。
スケッチ、デッサン、カラー彩色、オリジナルとつなげていく
就職、仕事、報酬へと結びつけるならば、自由に描ける技術が求められます。ここから先は練習の積み重ねが必要です。
これはどんなにデジタル化が進んだとしても練習をすべき内容です。機能を使っての光の調整、質感、距離感などをデジタル機能で作ったとしても、要求にそぐわなければ修正を求められます。それが機能にない特殊な要求にも答えなければなりません。
デジタル機材がなく、手元に鉛筆しかないなんて人は好都合です。
この先、専門学校に通おうと思っている方は、とにかくデッサンを習得してくれれば楽についていくことが出来ます。
デジタル時代になってもデッサンは最重要勉強方法だと思います。
スケッチからの練習方法はこちらをご覧ください。
= 背景の練習方法(初心者向け) 自由に描けるようになる為に
描く以外、クリエイターのルーティーン
ここでは、絵を描く以外で役立つ幾つかの技術向上ポイントを挙げておきますので、気が向いたらやってみてください。
これは私が実際に先輩方から言われてきたことであり、学生にも伝え課題にまでしている内容です。
”映像を作りたいなら完成形を見よう”、”イラストを描きたいならイラスを見よう”のような当たり前のことです。
①:興味を示す
私は幼少期から人より風景に興味を示していました。気づけば、雲、樹木、雪、夜景ばかり写真を撮っていた記憶があります。旅行の写真には人がほぼ写っていません。電車は窓際で同じ景色を眺める日々。これが観察力になっています。
②:写真を撮る
仕事で描く場合は見ている側の人を意識します。作品を見ているのは結局人なんですよね。そして、人と同じ仕組みで作られているのが実は写真なんですね。広角だの望遠だの覚える必要はありますが。
携帯はレンズが特殊になっていて少々人の目を超えている部分がありますがそれも時代でしょう。本来は一眼レフが良いのですが、持っていない方は携帯でもやらないよりはずっと勉強になります。良い構図が自然と身に付きます。
③:映画を見る
アニメ背景もゲーム背景も映像の一部の静止画ですから、映画を見るもの勉強になっています。
お客さんによりいい絵を見てもらうため、人の目を誘導するため、1カットには必ず主役が存在し、脇役が主役を際立たせてます。その中で実写映画はCGだとしても実写に合わせて作ってくれていますので現実に忠実です。
見せる映像には必ずライティングがあり背景と共通する部分が多く学べます。
④:描きたい絵を見る
これは最後に記述してますが最初でもありますよね。描きたいと思える絵、理想とする絵を見るのが一番手っ取り早いですよね。インターネットで簡単に情報が集められる時代に今ここが抜けている人が多いんですよね。映画を作りたいなら映画を見ましょう。
百聞は一見にしかずと言います。行動のスタートとしてまずは見ましょう。クリエイターの第一歩は見るです。
(結論)まとめ
- 写真トレスから始めるのが何よりも簡単、それでもしっかり勉強になっている
- 慣れてからでOK、写真を離してみる、距離を置いてみる、実物を描いてみる
- たまにはチャレンジ、想像で描く
- カラーは後回しで十分
- 日々のルーティーンにクリエイターへの癖付けを
- 技術を付けたいなら、日々の練習は絶対に必要